想い出は珈琲の薫りとともに
 井上さんとの話が終わるころ、上司に説明してくると奥の部屋に向かった安藤さんが戻ってきた。

「井上さ〜ん。こっちはOKですよ?」

 安藤さんが飄々と軽い調子でそう言うのを聞くと、井上さんは「では、桝田さん。こちらへ」と立ち上がった。

「はい……」

 逃げも隠れもできない状況で、私は仕方なく立ち上がり先を行くニ人の後ろに続いた。

 (ここには何部屋あるんだろう?)

 連れてこられた奥の部屋は、さっきまでいた部屋よりさらにゴージャスだった。まるで美術館の一角のような、調度品と絵画が設えてあるその部屋の真ん中の、華やかな装飾の施されたソファにその人は座っていた。

「お連れしました」

 井上さんの言葉に、まるでマネキンのように腰掛けていたその人は顔を上げた。

 そして、私は早くも後悔していた。

 (こんなに美しい人……見たことない……)

 それが、彼の第一印象。

 (こんな人のパートナーとして隣に並ぶなんて、私には到底できるわけない)

 呆然としながら、私はそう思っていた。
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