想い出は珈琲の薫りとともに
 顔合わせが終わると、すぐに私たちは部屋をあとにした。今度はパーティーに向けて準備が必要だからだ。

「よかった。どうやら桝田さんのこと、気に入ったようです」

 廊下を歩きながら、ホッとしたようにそう口にした井上さんを、私は驚いて見上げた。

「えっ? そんな風にはとても……」

「だよね! 薫さん、表情筋固まってるからさ!」

 困惑している私に、笑いながら答えたのは安藤さんだ。

「さすがに上司に対して失礼でしょう。薫さんが嫌な顔をしなかったなら気に入ったも同然です」

 井上さんは溜め息を吐きながらそう言う。

「まぁ亜夜ちゃん、美人さんだもんね?」

「……安藤。馴れ馴れしいですよ」

 井上さんに嗜められ、安藤さんは「え〜? 固いなぁ。さすが井上さん」と子どものような悪戯っぽい表情を見せた。

「だ、大丈夫です。お二人とも私より年は上ですよね?」

「そうだよ? 俺は今ニ十七。井上さんは今年で三十四だから、薫さんの一つ上ね?」

「そ、そうなんですね」

 ウインクしそうな勢いで話す安藤さんに、私は押され気味になっていた。
< 15 / 224 >

この作品をシェア

pagetop