想い出は珈琲の薫りとともに
12.dodici
本家を訪れてからもう一週間がすぎた。いつもなら混み合う平日の朝に店が空いていると、お盆休みなんだなぁと実感する。今日は、祝日と土曜日に挟まれた、一応平日の金曜日。私はいつも通りシフトに入っていた。
「さすがに、いつもの半分以下?」
「だね……」
一緒にカウンターに並ぶ真砂子は、店内を見渡していた。普段でも一時的にお客様の減る午前十時。近隣でショッピングなどを楽しむ人にはまだ休憩を取るには早い時間だからか、店の中は閑散としていた。
「私、物販棚の整理と在庫確認でもしようかな?」
ただぼんやり立っているだけなのも疲れてくる。自分からそう切り出した。
「私は秋冬用のブレンドでも考えよっかなぁ……」
口元に指を当てて真砂子は思案を巡らせているようだ。
カウンターは、お盆など関係なくシフトに入りまくってくれている桃ちゃんに任せ、私たちはそれぞれ別れた。
バインダーに挟んだ在庫表に書き入れながら、次のシーズンのラインナップを考えていると、後ろに人の気配を感じた。
「すみません!」
「はい」と返事をして振り返り、思わず目を見開いてしまった。
そこにいたのは背の高い男性と、細身の女性。その男性は私の顔を見るとホッとしたように息を吐いた。
「よかったぁ。亜夜ちゃん、やっぱ今日いた! 薫さん仕事だって言ってたからもしかしてと思ったんだけど」
「あっ安藤さん! お久しぶりです」
「ほんと久しぶり〜! 話には色々聞いてるのに、全然会えなくてさ。わざと会わせてもらえないのかと思ったくらい」
相変わらず軽い調子で、安藤さんはクスクスと笑っていた。
私も、薫さんから安藤さんの話は聞いていた。なのに今までなぜか、全く会うタイミングがなかったのだ。
「亜夜……さん? ってもしかして……」
安藤さんの隣にいた女性は、安藤さんを見上げて小さく尋ねている。その女性の顔はどこか見覚えがあるような気がした。
「そ。薫さんの奥さんになる人。亜夜ちゃん、紹介する。俺の奥さん」
「初めまして。安藤乃々花と申します。もしかして……以前、プリマヴェーラでお会いした……?」
恐る恐る尋ねられ私は「あっ!」と声を上げた。
「えっ? 何? 顔見知り?」
安藤さんは驚いている。と言うより私もだ。
(安藤さんの結婚相手が、薫さんの元婚約者なんて聞いてないよ!)
薫さんのことだから、言い忘れているだけなんだろうけど、私はその事実にかなり驚いていた。
「さすがに、いつもの半分以下?」
「だね……」
一緒にカウンターに並ぶ真砂子は、店内を見渡していた。普段でも一時的にお客様の減る午前十時。近隣でショッピングなどを楽しむ人にはまだ休憩を取るには早い時間だからか、店の中は閑散としていた。
「私、物販棚の整理と在庫確認でもしようかな?」
ただぼんやり立っているだけなのも疲れてくる。自分からそう切り出した。
「私は秋冬用のブレンドでも考えよっかなぁ……」
口元に指を当てて真砂子は思案を巡らせているようだ。
カウンターは、お盆など関係なくシフトに入りまくってくれている桃ちゃんに任せ、私たちはそれぞれ別れた。
バインダーに挟んだ在庫表に書き入れながら、次のシーズンのラインナップを考えていると、後ろに人の気配を感じた。
「すみません!」
「はい」と返事をして振り返り、思わず目を見開いてしまった。
そこにいたのは背の高い男性と、細身の女性。その男性は私の顔を見るとホッとしたように息を吐いた。
「よかったぁ。亜夜ちゃん、やっぱ今日いた! 薫さん仕事だって言ってたからもしかしてと思ったんだけど」
「あっ安藤さん! お久しぶりです」
「ほんと久しぶり〜! 話には色々聞いてるのに、全然会えなくてさ。わざと会わせてもらえないのかと思ったくらい」
相変わらず軽い調子で、安藤さんはクスクスと笑っていた。
私も、薫さんから安藤さんの話は聞いていた。なのに今までなぜか、全く会うタイミングがなかったのだ。
「亜夜……さん? ってもしかして……」
安藤さんの隣にいた女性は、安藤さんを見上げて小さく尋ねている。その女性の顔はどこか見覚えがあるような気がした。
「そ。薫さんの奥さんになる人。亜夜ちゃん、紹介する。俺の奥さん」
「初めまして。安藤乃々花と申します。もしかして……以前、プリマヴェーラでお会いした……?」
恐る恐る尋ねられ私は「あっ!」と声を上げた。
「えっ? 何? 顔見知り?」
安藤さんは驚いている。と言うより私もだ。
(安藤さんの結婚相手が、薫さんの元婚約者なんて聞いてないよ!)
薫さんのことだから、言い忘れているだけなんだろうけど、私はその事実にかなり驚いていた。