想い出は珈琲の薫りとともに

　この店は地元の人たちに人気なのか、ひっきりなしに客が来ているようだ。さっきからイタリア語の挨拶が飛び交っている。

「ボ、ボンジョルノ〜」

　あれ？と私は振り返る。明らかに慣れていない発音で、日本人がカタカナで言いましたって感じに聞こえたから。
　後ろからこちらに向かって歩いてくるのは、スーツ姿のアジア人ニ人。いかにも出張で来ましたと言う雰囲気を醸し出している。

「本当、どうしたらいいんでしょう」

　一人からそう聞こえて来て、やっぱり日本人だと思いながらそちらを見る。

「ギリギリまで探すしかないだろう」

　浮かない顔をしたニ人は私の隣のカウンターに座る。一人は三十代前半くらい。眼鏡を掛けて、髪型もカチッとしている。もう一人はニ十代半ばくらいだろうか。自然に染めた茶髪を遊ばせていて、少し軽そうに見えた。