宛先不明ですが、手紙をしたためました。



「あの、これ」

「ん?」



ゴミ箱を地面に置き、持っていた手をスカートで払ってから、両手で手紙を差し出す。



「これ、受け取ってあげて」



海藤くんは座ったまま、黙って受け取ると、その場で手紙を開いた。

内容を手早く確認すると、ブレザーの内ポケットに仕舞う。

とりあえず、受け取ってくれて良かった。

私の任務は、完了だ。

じゃあ、と言って、私はゴミ箱を持ち上げる。



「待ってよ」

「何?」

「まだなの?」

「……何が?」



質問の意図が分からず、首を傾げた。

すると、海藤くんはベンチから立ち上がり、私に寄る。

私よりも背の高い彼は、私の顔を覗き込んだ。



「栗山さんからのラブレターは、いつになったら貰えるの?」



全世界から、音が消えた。

飛びかけた自分の意識を、必死で呼び戻す。



「無いよっ。そんな物は、一生ありません!」

「ええ……。そんな必死に否定しなくてもいいじゃんか。俺、ずっと待ってるんだけど」

「待ってもらっても困る。無い物は、無いから」



クラスメイト相手に、失礼します、と一礼して走り出した。

──何、言ってるの?! あの人! てか、顔! めちゃくちゃ近かった!

ゴミを撒き散らしていることにも気付かず、無心で走り抜けた私は、その道中で先生に叱られてしまった。


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