一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
第14話 契約書
 なかなかサインしようとしない私に、啓雅(けいが)さんはペンを指さし、無言で促す。
 千歳(ちとせ)の顔を思い浮かべ、震える手で契約書を手元へ引き寄せた。

 ――なにもかも諦める覚悟をして、お見合いを承諾したんだから、ショックを受けるのはおかしいわ。

 そう自分に言い聞かせて、契約書と向き合う。
 そこから先は、動くことができなかった。
 リセがつけていたのと同じ香水の香りが、私の決心を鈍らせた。

 ――私が好きなのはリセだけ。

 あの出会いがなかったら、今、ここでサインをしていたと思う。
 リセは私に『さよなら』を言わなかった。

 ――あれは、リセの優しさだったってわかってる。

 馬鹿みたいだけど、私は再会を信じたかった。
 たとえ、恋人同士じゃなくても、デザイナーとモデルとして会えるかもしれないのだから。

「なにをグズグズしているんだ」

 啓雅さんは契約書にサインしない私に気づき、食事の手を止め、イライラして言った。

「結婚するしかないとわかっているだろう」
「何年かかっても、父の借金を返します。私はあなたと結婚できません」
 
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