政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 槙野は、はしゃいだ声の聞こえるテーブルに足を向けた。

「岡本くん、彼女はダメよ。婚約しているから。左手薬指見てごらん」
「わー、すごいゴージャスな指輪だね」

 男は図々しくも、浅緋の手を握って確認しようとした。そっと浅緋がそれを引く。
 人見知りで男性が苦手、というのは、本当のことのようだった。

「セレブな彼との婚約が決まっているのよ」
「そうだな。だから、こんなところで男と飯なんか食ってるわけにはいかないんだな」

 つい、自分が発する声が低くなってしまうのを抑えるつもりは、槙野には最初からなかった。

 自分を見た浅緋は、驚いたような顔をしている。

「社長!」
 その場にいた女性達がはしゃいだ声を上げるのを聞いて、槙野は外向けの笑顔を向けた。

 槙野は自分の顔立ちが悪くないとは分かっているし、こういう場での振る舞いも心得ている。

 自分がどう振る舞えば、悪気なく魅力的に見えるかも、充分に分かっている。

「ご存知の通り大事なお姫様だからね、連れて帰ってもいいかな? ここは奢るからさ」
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