政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「あの時はタガが外れてしまったので怖がらせてしまったのではないかと、思ったんですよ」

「あの時……」
「うちの玄関でのことですよ?」

そう耳元で囁かれて、浅緋はついドキンとして抱きしめられている片倉にぎゅっと抱きついてしまった。
そんなことを急に言われたら、ドキドキしてしまう。やっと鼓動が落ち着きかけていたのに。

「初めてだった?」
キスのことだろうと気付くと、浅緋はさらにとくとく音を立てる鼓動を抑えることなんて、できなかった。

先程からのはわざとなんだろうか、甘く熱っぽく耳元に囁かれているような気がするのは。

「はい」
片倉に届くか届かないかの声で言うのがやっとだった。

もっともの慣れた女性なら、そうじゃないのだろうに。そう思うと、レセプション会場での出来事が頭によみがえってくる。

片倉が綺麗な菜都、という女性と話していた時だ。
とても大人の女性で仕事も出来そうで、敵うわけがないという感じがして。

──それにあの方お胸もその……とても素敵だったのだし。
浅緋は片倉のスーツをぎゅっと握って、俯く。
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