政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「れ……練習?」
「そう。練習」
 そうにっこり笑って、片倉は浅緋の頬に手を触れる。

 先ほど止まりそうだった浅緋の心臓は、今度はそんなに主張するのかと言うくらいにうるさい音を立てている。

「浅緋、僕の目を見て?」
 じ……っと浅緋は片倉の目を見つめる。

──綺麗な茶色……優しそうな瞳。大好きだわ……。

「口元を見て?」
 今度は言われたままに片倉の口元を見る。
 薄めの綺麗な形の口の端がきゅっと上がったのが分かった。

 片倉がご機嫌な証拠だ。
(あ……)

 吸い寄せられるように浅緋はその唇に自分のを重ねた。今度は上手くいった気がする。
 ふっと笑った片倉は浅緋の手を取り自分の頬に触れさせる。

「気持ちいいですよ。浅緋」
 気持ち……いいの……?

 初めて手で触れた片倉の頬は見た目通り滑らかで、けれど、女性である浅緋のものとは全然違う。

 そんな風に思った浅緋の表情を読んだのか、片倉は浅緋ににこりと笑った。
< 199 / 263 >

この作品をシェア

pagetop