政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 いつも浅緋に何かを与えよう、与えようとする片倉から、何かを欲しいと言われることは初めてで、浅緋はとても嬉しくなった。

「はいっ!」
「浅緋からのキスが欲しいな」

──心臓が止まるかとおもいました……。

「キスして? 浅緋」
 片倉はそう言って眼鏡を外してベッドサイドの小物入れに置いた。
 そして、浅緋の手を握る。

 逃げ出したいような、けどそんなことは許されないような。

 浅緋は顔を上げて片倉を見た。
 目が合うとにこっと笑ってくれる。

 それが慎也さんの欲しいもの。
 浅緋はきゅっと目をつぶって、その綺麗な形の唇に自分の唇を付ける。

……少し外れたかもしれない。

「ありがとう。浅緋」
 とても下手くそなキスだったのに片倉は優しく浅緋を抱きしめてくれて、お礼を言ってくれて、とても嬉しそうな顔をしていた。

「上手くなくて、ごめんなさい」
「どうしてごめんなさい? 君からくれたものは何でも嬉しいよ。そうだな。もし気にしているのなら、練習しようか?」
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