政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 男の方って近くに来ると、こんなにどきどきするものなのかしら?
 経験のない浅緋には、それがどういうことなのか分からないのだ。

「フライ返しはこちらです」
 片倉はフライパンとフライ返しを手に取った浅緋を、興味深そうに見ている。

 お皿の上に、出来上がった目玉焼きを乗せるだけ。
 そんなことすら、近くに片倉がいるから緊張してしまう。そんな浅緋の様子に気付いて、片倉は苦笑した。

「すみません。僕のキッチンに人がいることが珍しくて、つい、見入ってしまった」

 片倉はバゲットを取り出して、慣れた様子でカットしている。
「冷蔵庫にサラダが入っているので、それも皿に乗せていただいていいですか?」

「はい」
 浅緋は言われたとおり、冷蔵庫まで行って大きなドアを開けた。
 
 中は整理された保存容器が、たくさん入っている。
 綺麗に並んでいるそれは、片倉の性格を表しているようだった。

 昨日まで実家にいたのに、今日からこんな風に片倉とキッチンで肩を並べて朝食を準備しているのは、とても不思議な気持ちだ。
< 27 / 263 >

この作品をシェア

pagetop