政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「いつも、こうやって準備されるんですか?」
「ええ。朝食は割としっかり取りますね。昼を抜いてしまうこともあるので」

「片倉さん私、明日からは準備しますから」
 片倉は手を止めて、浅緋をじっと見る。

「浅緋さん」
「はい」

 いつもはとても優しい表情をしている片倉に、こんな風にあまり表情がない様子で見られると、浅緋はどうしたら良いのか分からなくなってしまう。

「無理しなくていいです。それにお伝えしたと思いますが、あなたはお手伝いさんではないし、僕もできることはやる主義です」
 拒絶されたような気がして、浅緋は俯いてしまった。

 浅緋の父はキッチンに立つような人ではなかったので、そんな風に言ったのだが、どうやら間違っていたようだ。

「ごめんなさい」
「謝らなくていいんです。では、こうしましょうか。夜は僕は帰りが遅いし、食事を自宅で取ることはあまりできません。だから朝食はできるだけ一緒に。で、一緒に作る。どうですか?」

 そう提案されると、それはとても素敵な案のような気がした。
 浅緋は先程までの気持ちがすうっと楽になる。
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