政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 浅緋と一緒に過ごすようになってからは。

「すみません、急に早めの送迎をお願いしてしまって」
「いいえ。そんな、お気になさらず。いつでも出られるようにしていますから。ただ最近は珍しいな、と思っただけです。いつでもお申し付けください」

「ありがとう……」
 窓の外に流れる景色を見ながら、片倉はため息をついた。

 いつもならば、この移動時間すらもタブレットでメールチェックしたり、書類を確認したり、さらに経済誌のチェックをしたりする。

 けれど、今日はそういう気持ちにはなれなかったのだ。

 片倉は後悔したことはない。
 後悔などしないように生きてきた。

 先を見通して、着地点をしっかりと見据え、それに対し計画的に行動し、失敗も見越して事前にあらゆる対策を取る。
 そうすれば、後悔することなどない。

 昨日のことも……後悔はしていない。
 浅緋にキスをしてしまったことだ。

──後悔はしていない……が、反省はすべきだな。

 車から外を見ていたら、園村のことに思いを馳せていた。
 浅緋ではなくて浅緋の父のことだ。



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