僕惚れ③『家族が増えました』
 葵咲(きさき)に服を脱ぐことを強要してきた時点で、理人(りひと)の手は葵咲の手首からは離れていた。

 葵咲は唾を飲み込むと、半歩ほど理人との距離を削って目の前の彼にギュッと抱きついた。

 途端、理人が息を呑んだのが分かって。葵咲はこのあと己が取るべき言動を慎重に模索する。

「あのね、理人。先にセレの……あの子のための道具を揃えてから……じゃダメ、かな?」

 そこで理人を上目遣いに見上げると、フイ、と視線を外してリビングの箱へと流す。

「お店、閉まったらセレ、可哀想だよ? ベッドもご飯もトイレもまだちゃんと用意出来てないもの……」

 帰宅直後、デレッとした顔で子猫を抱き上げた理人を思い出しながら、葵咲は慎重に言葉を選ぶ。

 セレ、セレ、セレ……。子猫のことを思い起こさせたら、理人は踏みとどまってくれるんじゃないかと思った。

「……葵咲」
 呼びかけられて、葵咲は彼の服をギュッと握ったまま、理人を見上げる。

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