僕惚れ③『家族が増えました』
 ただ一度口付けられただけ。

 それだけなのに、葵咲(きさき)(ほほ)はほんのりと上気して、唇から漏れ出る吐息も熱を(はら)んだように熱く感じられた。

理人(りひと)……」

 潤んだ瞳で理人を見上げるけれど、彼は許してくれそうになくて。

 今、理人から離れると、途端その場にへたり込んでしまいそうに足が覚束ない。

 葵咲は理人の服をギュッと握ったまま、小さく深呼吸をした。

 一縷(いちる)の望みをかけてもう一度理人を見上げてみたけれど、彼の気は変わりそうになくて。

 葵咲は恐る恐る理人から手を離すと、何とか自力で立った。

 そうして観念したように前開きのシャツワンピースのボタンに手を掛けると、震える手で上から順にひとつずつ外していく。

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