僕惚れ③『家族が増えました』
「けど……どうしてすぐに言ってくれなかったの? キミの婚約者(フィアンセ)として、葵咲(きさき)に頼りにされてないみたいで、僕はすごく悲しかったんだけどな?」

 葵咲の左手を持ち上げて、薬指――婚約指輪――にキスを落とす。そのまま視線をずらしていくと、必然的に見えてくる皮膚の変色に、理人(りひと)(はらわた)が煮え繰り返りそうになる。

 こんな痛々しい痣《あざ》を付けられておきながら、なぜ何も話してくれなかったんだ?と思ってしまった。

 いや、そればかりか、葵咲は理人から(それ)を隠そうとしたのだ。

 葵咲の性格を思えば、そうするのは至極当たり前なのだと頭では分かっていても、それでもやはり言って欲しかったんだよ、僕は!と思ってしまって。

「これ、やられたとき、怖かっただろ?」

 (あざ)に唇を寄せてツ……と舌を這わせてから、理人は葵咲をじっと見つめる。

 ――と、彼女は一瞬瞳を大きく見開いてから、躊躇(ためら)いがちにこくりと(うなず)いた。

 その拍子、葵咲の瞳に溜まっていた涙がポロリと理人の腕に落ちて(はじ)ける。

 葵咲が泣いてしまった原因は、恐らく怖かったことを思い出したからではない。
 ただ単に、今、理人が問い詰めたことで感情が(たか)ぶって出てしまった、生理的な涙だ。

 分かっていても、理人にはそう思えなくて。

 理人がそばにいないときに起きたこととはいえ、自分が葵咲を守ってやれなかったのはまぎれもない事実だ。

 そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。
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