僕惚れ③『家族が増えました』
「……ごめん、葵咲(きさき)

 理人(りひと)はなおも葵咲の頬を濡らす涙の(あと)を指の腹でそっとこすると、彼女に謝罪する。

「ね、葵咲。これ、やったの山端(やまは)さん?」

 分かっているけれど、それだけは確認しておかねばならない。

 理人の問いかけに、葵咲が寸の間逡巡(しゅんじゅん)して、それでも理人の目の前で逸樹(いつき)から謝罪されたこともあり、隠しきれないと思ったんだろう。こくんと首肯(しゅこう)した。

 理人は葵咲が頷いたのを見て、舌打ちしたくなるのをグッと(こら)えた。
 逸樹に腹を立てての態度だとしても、今そばにいるのはあの男ではない。理人にとっては何よりも大事な葵咲なのだ。

 これ以上彼女を怖がらせるわけにはいかない。

 あの謝罪から判ずるに、隣人も悪いことをしたという認識はあるんだろう。多分、自分が同じことをされたんだとしたら、理人は禍根(かこん)なく水に流せたと思う。

 でも――。
 葵咲にされたとなると、話は別なのだ。

 理人は逸樹に、どう落とし前をつけさるべきかと考えながら、葵咲の頭を優しく撫でる。

「ね、葵咲、続き、しよっか?」

 理人は逸樹が葵咲につけた(あざ)を、自らの痕跡で上書きしたい、と強く思った。
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