・LOVER—いつもあなたの腕の中—
「あ、いえ。引き留めちゃってごめんなさい。スマホ、すみませんでした。ありがとうございました」

「いいって、じゃあね」


 軽く右手を挙げ挨拶を済ませた西田リュウは、その場を足早に去り。見送った背中が見えなくなりかけた頃、背後から「すみません」と声をかけられた。
 振り向くと、ちょっと怖そうな女性が私を睨み気味にして、息を切らせて突っ立っている。
 艶のある黒髪に一日経過したとは思えない程、綺麗に施されているメイク。白い開襟シャツの上にスーツを着込み、いかにも仕事が出来そうな女性だ。纏っている上質そうなコートは、私が着ている物など足元にも及ばなそう。


「さっきまであなたが一緒に居た男性、何処に向かったのか分かりますか?」


 尋ねられても分かるわけがない。私はそこまで彼のことを知らないし詳しくない。
 それより、この女性は何故彼を追っているのだろう。まさかファンとか? なら、この場はとぼけておくのが一番だよね。
「さあ、知りません」と答えることしかできない私に、女性は大きなため息を吐いた。


「逃げられたわ。リュウったら、まだ仕事が残ってるのに」と髪を掻きあげ、困った表情を浮かべた女性は、彼のマネージャーだと名乗った。
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