甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
【溺れゆく恋の始まり】
湊さんと過ごした夜は、まだ余韻が残っている。
「これは…」
帰ってシャワーを浴びた時、いくつもの小さな赤みが残っていた。
鏡に映るその赤みを見ただけで、体中が熱くなった。
木島さんと一緒になって、同じように受け入れることが出来るのかなぁ。
目を瞑り想像しても、映し出されるのは、優しい湊さんの姿だった。

月曜日は、西条HDの専務が来る日。
西条HDの専務ともなれば、どっしりと厳しそう。
あっ、でもご子息って言ってたなぁ。
超俺様専務だったりして。
ふと笑いながら、私はいつものように仕事を始めた。
「佐々倉さん、おはよう」
「お、おはようございます」
木島さんに声を掛けられて、ビクッとした。
まだ付き合ってもないし、悪い事をしたわけでもないけど、何だか気が引けた。
「管理部の人は皆、会議室に集まって」
木島さんの声掛けで、会議室に向かうと、既に役員が座っていて、各部長と管理部の人達が着席した。
お父さんが前に立ち、挨拶を始めた。
「既にお話している通り、当社は、西条HDの傘下に入ります。それに伴い、西条HDの西条専務が当社に関わっていただきます。そろそろ来られるので、お待ち下さい」
しばらくすると、1人の男性が会議室に入って来た。
「西条専務、よくお越しいただきました。ひと言、宜しくお願い致します」
「初めまして。西条です。宜しくお願いします。あと、専務でなく、普通にさん付けでお願いします」
その人は顔を上げて、会議室にいる人達の顔を見渡していた。
へぇー、思ってたより若いんだ…
ん?えっ?あれは…
湊さん!
私はびっくりして、じっと見ていると、湊さんがこっちを向いた。
慌てて目を逸らし、下を向いた。
バレた?
いや、そうだ!
今日は目が痛くて、コンタクトじゃなくてメガネ掛けてるし、髪はアップにしている。
目が合ったのも一瞬だし、きっと分からないよね。
そう思いながらも、湊さんの挨拶の時は、顔を上げず、やり過ごした。
挨拶が終わり、湊さんは私を見ることなく、お父さんと木島さんと一緒に部屋を出て行った。
「嘘でしょ…まさか、西条HDの御曹司なんて。私はなんてことお願いしたんだろう」
頭が痛くなってきて、しばらく席から立ち上がれなかった。
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