甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
誤解だった。
私は西条HDの専務ではなく、1人の男性として、湊さんの全てに溺れていった。
でも…
私の本気の好きが、湊さんを苦しめているかもしれない。
突き放すのも可愛そうだと。
距離を置いて、本来の関係に戻ろう。
あぁ、でもお父さんの預かり物、取りあえず、書類だけは渡さないと。
お昼間にポストに入れていたら、湊さんと顔を合わせることはないか。
慌てて出掛ける準備をして、湊さんのマンションに向かい、ポストに投函した。
「これで良しと」
外に出て歩き出した時、目の前に勢いよく走ってくる人の足元が見えた。
「えっ」
「結羽!」
そう言うとその人は私を抱きしめた。
私の大好きなこの香りは…
「み、湊さん、どうして。お仕事のはずじゃ」
「野木さんから連絡があって、書類を直接渡すように伝えてるって聞いたから」
呼吸が乱れて、急いで来たのが分かる。
「もしかして俺がいない間に、ポストに入れに来るんじゃないかと思って、待ち時間に車飛ばしてきた。良かった、間に合って」
更に強く抱きしめられた。
「誤解だって分かって貰えて、良かった」
誤解…
そう、誤解なんだけど…
そもそも付き合ってもないのに、誤解されたからって本当は関係ないんじゃないのかな?と冷静になって理解できた。
「湊さんが悪いんじゃないです。私の勝手な思いだけです。父から預かった書類は、ポストに入れてますので、これで失礼します」
湊さんから体と腕を放し、頭を下げて立ち去ろうとした。
「待って!」
腕を掴まれて、振り向くと、瞳が揺れて悲しそうな顔を私に向けた。
「お願い。早く切り上げて帰るから、部屋で待ってて」
そうして、私の手を引っ張り、部屋に入ると慌ただしく、
「冷蔵庫に飲み物や食べ物あるし、好きに使ってくれて構わないから、待ってて」
そう言うと、急いで出て行った。
残された私はただただ、呆然と立ち尽くしていた。
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