甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
「…ご迷惑じゃなければ、もう少しだけ、傍にいてもらえますか…」
彼女の言葉に、俺の理性の枷が、完全に外れた。
「いいよ。俺でいいなら」
精一杯の返事をした後、彼女を部屋に連れていった。
この俺が緊張してる?
自分でも、今までにない感情にびっくりした。
でも、彼女は好きでもない人との結婚に悩んでいるんだ。
結婚相手がいるのに、俺の感情だけで彼女を傷つけたらダメだ。
彼女の気持ちを大切にしないと。
そう、頭では分かっている。
ただ、彼女を目の前にして、どうしようもなく、このまま彼女を抱きたい衝動に駆られた。
もし、彼女が少しでも俺に気持ちが向いてくれたなら…
「次は?」
彼女の色気ある唇と重なり合う度に、胸が熱くなる。
「…色々と初めてなんです…」
彼女のその言葉の重さに、俺の気持ちは葛藤した。
でも、その思いは、一瞬でかき消される。
彼女をこのまま帰したくない。
その思いの方が勝っていた。
俺に体を委ねる彼女。
俺が初めてという女性を抱くのは、俺自身、初めてだった。
俺だけしか知らない彼女。
もっと俺だけの色に染めたい。
愛おしい彼女を、時間をかけて愛した。

再会は運命を感じ、木島さんに対して、初めて嫉妬という、胸の苦しさも知った。
2人が出張に行った時は、あくまでも仕事だからと、割り切ろうとしたけど、心穏やかでは居られなかった。
結羽との電話を切ってから、すぐに野木さんに連絡した。
「野木さん、佐々倉フーズとの会議はWeb会議に変更して、昼から次の日まで休みたいんだけど、日程調整してもらえる?」
野木さんは即答で、
「昼からの訪問は、社長の代理ですし、次の日は、2回も専務の都合で日程変更してますから、キャンセルは難しいです」
「そこを何とか出来ないかな」
「どうされましたか?そんな事、今まで一度も仰った事ないのに。体調でも悪いんですか?」
「いや、体調は大丈夫だよ。…わかった、もう忘れてくれ」
はぁ、今すぐにでも大分に、飛んで行きたいのに…

当日の夜、もしかして、2人で過ごしているんじゃないかと、落ち着かない。
何度も電話しようとしたけど、コールがなる前に切った。
はぁ…何やってんだ俺。

出張から帰って来た2人が、大切な話があるからと、食事に行くと聞いた時は焦って、家を飛び出していた。
嫉妬に駆られる、そんな言葉は、無縁と思っていた俺。
結羽に逢いたくても逢えないもどかしさも、腕の中に抱きしめた時の愛おしさも、初めて感じる気持ちに、戸惑う自分がいた。
人を愛するって、嬉しさも苦しさも、こんなに感情が揺さぶられるとは知らなかった。
結羽のいないこれからの人生なんて、考えられない。
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