甘い夜の見返りは〜あなたの愛に溺れゆく
昼間の彼女、悲しそうだったよなぁ。
そんなことを頭にチラつかせながらも、仕事をようやく終えた安堵感で、お酒を飲みたくなった。
白のシャツに黒のパンツとラフな服装に着替え、ホテルのラウンジへと向かった。
中に入ると、馴染みのマスターと…
あれ?あのカウンターに座っているのは、もしかして…
ふと見ると、パンツスタイルで服装は違ったものの、その横顔は間違いなく昼間の彼女だった。
「ここ、いいですか?」
近くで見ると、二重の大きな瞳は澄んでいて、見つめられると目が離せない。
色が白く、肩まである黒髪は緩くかかったパーマがよく似合っていた。
そして、ふっくらした唇が可愛らしさの中に、色気を感じた。
あの時、妖精のように美しかった彼女のその笑顔は、お酒の酔いで頬が赤く、少し色気が交わって、より心を揺さぶった。
何だ、この胸がざわつく感じ。
そうだ。何故、あんなに悲しそうにしていたんだろ。
「悲しいこと、あったの?」
彼女は色々と話してくれた。
そうか、好きでもない人との結婚か。
俺も例外じゃないよな。
親父は、お前の嫁になる人はって、理想を勝手に決めつけている。

大学から海外に留学して、何人か付き合ったけど、自分が心を許せる女性が現れず、結局、体だけの関係の女性を求めた。
海外から帰国すると、スキャンダルを起こすなと、行動も制限され、女性に対する警戒心が高まり、心奪われるような女性と出逢うことが無かった。
俺が社長の息子と言うことだけで、寄ってくる奴ばかりだった。
もしかして、相手を信じられなくて、俺がそう思い込んでたのかもしれないけど。
この子も俺のこと知ったら、目の色変えて寄ってくるのかな。

横を見ると、彼女は必死になって話をしていた。
よっぽど納得いってないんだろう。
でも、必死に話す、その姿が可愛い。
「男性と、まともに付き合ったこともないですから…」
真っ赤になって俯く彼女は、嘘偽りなく、純粋なんだ。
ラウンジを出ると、可愛いのに、悲しい顔に戻るのを見ると、自然と抱き寄せて、頭を撫でてしまった。
そんな彼女に、
『もう少し一緒に過ごさない?』なんて言えないな。
きっと一線を越えてしまう。
俺が理性を保てる間に、部屋に戻らないと。
それなのに…
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