僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「塚田さんには私のこと、昔みたいに“葵咲(きさき)ちゃん”って話してたでしょう?」

 葵咲ちゃんの言葉にドクンッと心臓が跳ねた。

 き、聞かれてたなんて――。

 葵咲ちゃんはかぐや姫と和気藹々(わきあいあい)だったし、僕と修太郎(しゅうたろう)氏の会話なんて耳に入ってないと油断してた。

「あ、あれは――」

 言い訳しようとしたけどうまく言葉が出てこなくて、結局言いさしたまま沈黙してしまう。

理人(りひと)が私を呼び捨てするようになったのって……私が自分の気持ちを認めるのが怖くて……アナタをお兄ちゃんとしてしか見られないって言ってから、だよね?」

 葵咲ちゃん、よく覚えてるなぁ。
 本当、怖いぐらいだよ。

「――そうだね。あのまま……子供の頃の呼び方を続けていたんじゃ、(らち)があかないって思ったから」

 はぁっと小さく溜め息を吐くと、僕は観念したように彼女の言葉を認めた。

「じゃあ……今の私はどう見える?」

 不意に甘えたように潤んだ目で見つめられて、僕は一気に身体中の血が沸騰するような錯覚を覚えた。

 蠱惑的(こわくてき)で魅力的な……“女”の目だ。

「どう、って?」

 そんな目で見つめられて、葵咲ちゃんの言葉の意図に思い当たらないはずないくせに、まるで気付けないみたいにそう問いかけた僕はずるい。
 それなのに、葵咲ちゃんは呆れたりしないで丁寧に答えてくれるんだ。

「理人のこと、“異性として”意識していないように……見える?」

 そんな分かりきった質問。

 答えは「(いな)」に決まってる。

 我慢しきれなくなった僕は、葵咲ちゃんを両腕にギュッと抱きしめた。
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