僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
***


理人(りひと)は……いつも私に対して背伸びしてる気がする。私の呼び方だって……」

 さっきの流れで葵咲(きさき)ちゃんにポツンとつぶやかれて、僕は内心ドキッとする。

「……呼び方?」

 動揺を悟られないよう気をつけながら彼女の言葉を拾ったけど、うまくできたか自信がない。

「理人、昔はずっと私のこと、“葵咲ちゃん”って呼んでたよね?」

 僕の目をじっと見つめながら葵咲ちゃんに問いかけられて、僕は思わず土産の整理をするふりをして視線を逸らす。

「いつからだっけ? アナタが私のこと、()()()付けで呼ばなくなったのは……」

 なんでいきなりっ。
 とか頭の中グルグルしてるけど顔に出すわけにはいかない。

「ちゃん付けのほうが嬉しいの?」

 努めて平坦な声で問いかけたつもりだけど、どうだろう。

「そういうわけじゃないけど……なんだか時々無理させてる気がして……違和感を覚えることがあるの」

 葵咲ちゃんはわざわざ僕のそばまで歩み寄ってくると、すぐ横にしゃがみ込んだ。

「私、知ってるよ?」

 袋から獺祭(だっさい)を1本ずつ取り出しては、酒蔵であらかじめつけてもらっていた個々の袋に入れ直す作業をしていた僕の手に、葵咲ちゃんの小さな手が重なる。

「――っ」
 僕は思わず化粧箱を掴み損なってしまって。ほんの少しだけ持ち上がっていたお酒が床と触れ合ってゴン……と鈍い音を立てた。

「き、さき?」

 恐る恐る彼女の名を呼んですぐ横の彼女を見詰めたら、アーモンドアイの大きな瞳でじっと見つめ返された。
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