僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

*僕だけのもの

「ここ……」

 タクシーを降りたら、そこはとあるシティーホテルの前で。

 葵咲(きさき)ちゃんが呆然と立ち尽くす僕の手を引いて、少しはにかんだように笑う。

「そんなに高いお部屋じゃないんだけど……予約、してあるの」

 すでにチェックインは済んでいるらしく、大学が終わってから一旦家に帰って、自分のものはもちろん、僕の下着や着替えなんかも部屋に持ち込んであるらしい。

 フロントで、預けていたキーを受け取った葵咲ちゃんに手を引かれて、今、僕たちはエレベーターの箱の中だ。

 かご内のカーパネルから十五階を押すと、葵咲ちゃんが、「だからね、実はタクシーに乗るの、今日は三回目だったの」と言った。
 家からホテルまで。ホテルから大学前まで。そしてさっき僕と二人で大学からホテルまで。

 別に電話帳に登録していたわけではなくて、たまたまリダイヤルで掛けられる位置に、タクシー会社の電話番号があっただけ。そう言ってから、
「普段なら私、どこかに行きたいときにはちゃんと理人(りひと)を頼ってる。今日は……今日だけは、特別」

 さっき、僕がタクシーのなかで告げた言葉を受けての発言だろう。サプライズだから、と付け加えてから、「驚いた?」と僕の顔を覗き込んでくる葵咲ちゃんに、僕はすぐに返事が出来なくて、彼女の顔をじっと見詰めた。

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