僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 塚田(つかだ)さんは白いTシャツの上に黒の半そでパーカーを羽織って、下はひおちゃんのワンピースに合わせていらしたのかな。唐紅(からくれない)のスキニーパンツを履いていた。

 とても優しそうな物腰の男性で、ひおちゃんを溺愛しているのが、彼女を見つめる視線からダダ漏れている。

「初めまして、塚田修太郎(しゅうたろう)です。えっと……」

 そこで困ったように止まる塚田さんを見て、私は慌てて名乗った。

「は、初めまして。丸山葵咲(まるやまきさき)と言います。その、ひおちゃんとは……小さいころに離れ離れになってしまったんですが、ずっと連絡は取り合っていたので……。えっと……お、幼なじみみたいなものです」

 言って、ひおちゃんにそうだよね?と同意を求めたら「幼なじみなのですっ」とギュッと手を握ってくれた。

「そうなんですね。――丸山さん、いつも日織(ひおり)と仲良くしてくださって有難うございます」

 言って、私の足元のスーツケースに視線を転じると、荷物、お持ちしましょう……とおっしゃった。

 それに慌てて「あ。でも重いですし!」と言ったら、二人に笑われてしまった。

「重いのでしたら、尚のこと男の僕がお持ちしないと」

 塚田さんの手がすっと伸びてきて、スーツケースを軽々と持ち上げられてしまう。

 そういえばあっちでは理人(りひと)がずっと持ってくれたっけ……。
 そう思ったら、胸の奥が切なく疼いて、私は小さく吐息を漏らした。

 そんな私に気付いたのか、ひおちゃんが私の耳元で囁く。

「ごめんね、ききちゃん。本当は私一人でお迎えに来る予定だったのです。でも……」
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