僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
 ふとそんな光景を思い浮かべて、僕は思わず笑ってしまった。
 何だそれ、僕の目の前にいるのは嫁入り前のお嬢さんかっ!

「けどさ、普通に考えて僕が真咲(まさき)の家に電話するの、おかしいだろ」

 笑いながら言ったら、「だから聞いたんだよ。いつの間にそんなに酔っ払った(飲んだ)のかなって」って酷すぎない?

「まぁ、それはいいよ。違ってほっとした。っていうか、連絡くらい好きに入れて来なよ。――あ、やっぱその前に、次の注文……俺のと一緒に頼んどくから、決めて行って」

 空のグラスをチラッと見た真咲にそう言われた僕は、ふと手元の、卓上用メニュースタンドにピックアップされていた日本酒を指さした。

「ごめん、じゃあこれ、頼んどいてくれる?」

 たまたまそこに、今、葵咲(きさき)ちゃんが向かっている先の地酒を見つけたのは偶然だろうか。いや絶対必然だ、とか思って、深い縁を感じてしまう。

獺祭(だっさい)?」

 真咲がつぶやくのへ、「うん」と頷きながら、「もぉー、理人(りひと)。ちゃんぽんはダメっていつも言ってるでしょう?」と葵咲ちゃんが頬を膨らませる様子がふと目の裏に浮かんで、僕は恋しさに「はぁっ」と切なく溜め息を落とした。

 葵咲ちゃんに会いたい……。
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