僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「た、だいま……っ」


 ガチャリと鍵が回ってドアが開くと、髪の毛から水滴をポタポタと滴らせたずぶ濡れの葵咲(きさき)ちゃんが立っていて。


理人(りひと)ぉー、ごめんなさいタオル……――」


 おそらく顔にも水が伝い落ちてくるんだろう。


 頭をしきりにふるふると振って、犬が水気を飛ばすような仕草をしながら、葵咲ちゃんがそう僕に声をかけようとして――。

 すぐそこに僕が立っていたことに驚いたように瞳を見開いた。


「わっ、理人、いたの……っ!」

 バツが悪そうに眉根を寄せて、僕を見上げてくる葵咲ちゃんがたまらなく可愛い。

 雨には降られたけれど、何とか目的は果たせたのか、胸前にしっかりとビニール袋が抱えられていて。


 そんな葵咲ちゃんの全身からパタパタと水滴が落ちて、玄関先に小さな水たまりを作っている。


 濡れそぼった葵咲ちゃんに見惚れていた僕は、それを見て、慌てて脱衣所からタオルを持って戻ってきた。

「はい、タオル……」

 タオルの代わりに葵咲ちゃんが手にしていた砂糖を受け取って。


「――っ! 葵咲……、それ……」

 手を伸ばしてきた葵咲ちゃんを見て、僕は思わずそこでフリーズしてしまう。
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