僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「約束する」

 ――とりあえず、()()……ね。


 心の中でずる賢くそう付け足すと、僕は葵咲(きさき)ちゃんに見えないのをいいことに、口の端を笑みの形に引き上げた。


 ややして、そろそろと濡れた衣服を脱ぐ、重たい音がし始めて。


「脱いだ服はさっき僕が渡したタオルに包んで持つといいよ」

 言って、「おいで」とバスタオルを揺らしてその中に彼女の柔らかな肢体が入ってくるのを待つ。


「み、見ちゃダメだからね!?」

 言いながら、葵咲ちゃんが僕の腕の中に収まったのを感じて、ふわりとタオルで彼女の身体をくるむ。

 そんなに警戒しなくても、キミの身体は葵咲ちゃんには見えないような位置にあるホクロに至るまで、隅々(すみずみ)まで知り尽くしているのに。

 ギュッとバスタオルで葵咲ちゃんの身体を包み込みながら、思わずククッと声が漏れた。


理人(りひと)?」

 腕の中、葵咲ちゃんが僕を見上げて怪訝(けげん)そうな顔をしてきたけれど、僕はあえてそれには答えず、葵咲ちゃんを簀巻(すま)きにしてお姫様抱っこの要領で抱き上げる。


「きゃっ」

 途端、葵咲ちゃんの可愛い悲鳴が上がって、僕はどうしようもなく彼女に対する愛しさが込み上げるんだ。

「そんなに(あお)らないで? 僕、いま、結構ギリギリのところで踏みとどまってるんだよ?」

 濡れた髪の毛越し、葵咲ちゃんのおでこに口づけを落とすと、やっぱり体がびしょ濡れだからだろうか。
 葵咲ちゃんのおでこはひんやりと冷たかった。


「身体、冷たくなってるね。早くお風呂で温めないと」
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