僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「待ってて」

 断腸の思いで葵咲(きさき)ちゃんから視線を引き剥がした僕は、もう一度脱衣所に向かう。
 そうして新たに大きめのバスタオルを1枚手に取ると、玄関に舞い戻った。


「葵咲、()()()()だよ」

 葵咲ちゃんと自分との間にシールドを張るように大きくバスタオルを広げると、僕は彼女にそう呼びかける。

「り、ひと?」
 
 僕の言葉の真意を測りかねた葵咲ちゃんが、戸惑いを(あら)わにした声音で僕の名を呼んだ。


「そこで服、全部抜いじゃおっか」

 途端、バスタオルの向こうから葵咲ちゃんが「えっ」とつぶやく。

 そりゃそうだよね。
 いきなり全部脱げ、だもん。


「ほら。僕はバスタオルでキミのことは見えないから大丈夫。恥ずかしくないだろ?」

 言ってもなお動こうとしない葵咲ちゃんに、

「そんなにびしょ濡れの服、タオルが何枚あっても足りないよ? 服はいっそ脱ぎ捨てて、裸でお風呂に行ったほうが早いって」


 いくら夏とは言え、びしょ濡れの服を着たままの葵咲ちゃんを、長いこと放置しておきたくない。


「ほら、さっさとしないと僕が脱がしちゃうぞっ?」


 わざとバスタオルをバサバサ振って、葵咲ちゃんを(あお)る。


「ぜ、絶対に……見ない?」


 バスタオルの向こう、葵咲ちゃんが恐る恐る立ち上がる気配がした。
< 242 / 332 >

この作品をシェア

pagetop