僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「いっ、痛いです、修太郎さんっ」

 ひおちゃんが小さく声を上げて、慌てて塚田さんがひおちゃんの腕を離した。

「でも、これでお解りになられたでしょう? だ・か・ら! ダメなのですっ!」

 きっぱりとひおちゃんにそう言われて、塚田さんがしゅんとなさる。

 それを見ていたらどうしても出掛けに見た理人(りひと)と重なって、私は何だか申し訳なくなってしまった。

「ひ、ひおちゃん、私、別にどこでも平気だよ? 理人には言わなきゃ分からないことだし……それに――」

 二人は入籍を済ませた……言わば夫婦なのに私のせいで離れ離れとか申し訳ないよ。

 そう続けようとしたら、ひおちゃんが私の唇に人差し指を当てて、言葉を止めた。

「ききちゃん、何を言っているのですかっ。自分がされて嫌なこと、相手にしたらダメなのですっ。それにききちゃん、彼氏さんに嘘とかついて平気な子じゃないでしょう?」

 普段はほわほわとして頼りなさそうに見えるけれど、ひおちゃんはやっぱり私よりお姉さんなのだと時折痛感させられる。
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