僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

僕の言う通りにして?

「えっ?」

 一瞬何を言われたのか分からなくて動きを止めた葵咲(きさき)に、理人(りひと)が言い募る。

葵咲(きさき)()()()、今、ベッドから降りようとしただろ? 降りたらダメだからね?』

 やっぱりこの部屋には監視カメラが付いているのではないだろうか。

 そんな疑念が再度浮上してきてキョロキョロとあちこち見回した葵咲に、理人が言う。

『さっきも言ったけど、監視カメラとかじゃないからね?』

 その言葉に、思わず「なんで疑ってるって分かったの?」と声に出してしまった葵咲は、理人に笑われる。

『葵咲ちゃんならこうするだろうなって、何となく分かるだけだよ』

 何せ理人は小学六年生の頃からずっと……葵咲()()を見てきたのだ。
 ある意味、本人以上に葵咲に詳しいかも知れない。

 こう言えば、葵咲はこうするだろうと言うのが理人には何となく分かってしまうらしい。

 そのくせそれを実際に確認するまでは不安でたまらないとか吐息まじりにぼやいた理人に、今度は葵咲が溜め息を落とす番だった。
< 316 / 332 >

この作品をシェア

pagetop