僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「理人のバカ……」

 理人は葵咲(きさき)のことを分かっているみたいに言うけれど、葵咲がどんなに理人のことを愛しているかに関しては、ほとんど伝わっていないと思う。

 葵咲はこんなにも理人のことを好きで好きで堪らないのに。

 それが伝わらないことが、もどかしくて腹立たしい。


『うん。僕はキミに関しては本当にどうしようもないバカなんだ。だから――今から葵咲に本当に愚かなお願いをしようと思ってるんだけど……』

 不意に声音を低められて、先に自分がこぼしたボヤキを肯定された葵咲は、理人の言葉に思わず身構えた。

 こういう雰囲気の理人は(ろく)でもないことを言い出すのを、長い付き合いで葵咲は知っていたから。


『本当はね、テレビ電話に切り替えたいところなんだけど――それだとさすがにキミに却下されそうだから……音だけで我慢しとく』

 そう前置きをして理人が言った。


『電話越しに葵咲ちゃんを抱かせて?』
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