僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
『それは脱がせやすそうだね。――そう言えば昨夜の葵咲(きさき)も前開きのパジャマだったよね』

 不意に理人の声が、エッチしている時特有の、ワントーン低められたものになった。

『ひとつずつボタンを外していくごとに見えてくるキミの肌、すっごく綺麗で……。照れてほんのり桜色に染まるのなんてめちゃくちゃ色っぽかった』

 それだけで、葵咲は条件反射ようにゾクリとしてしまう。

「あ、あの、理人っ。バカなことは――」

 それでも戸惑いに揺れる声で「バカなことはやめよう?」と電話口に投げ掛けようと頑張る葵咲に、理人が続けるのだ。

『ねぇ、覚えてる? 僕がキミの身体のあちこちにキスマークをつけたこと』

(覚えてるも何も、つい昨日のことじゃないっ!)

 言われた途端、半ば条件反射みたいに心の中で反論してから、葵咲はいま自分が座っているベッドのうえ、理人に身体中、余すところなくたくさんの口付けを与えられたことを思い出した。

(――っ!!)

 恥ずかしさに慌ててうつむいたら、開襟になった首元、胸のふくらみに赤い鬱血がチラリと見えて、理人の唇の感触までもが生々しく蘇ってきてしまう。
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