僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「理人……。……私、ホントに……()なの……」

 葵咲(きさき)は涙目になりながら、こう言うのは本当にしたくないのだと訴えてみる。

 理人は、葵咲が本気で嫌がることは絶対にしない男だ。

 このまま理人と話し続けていたら、きっと自分の手指で敏感なところを触るように要求されてしまうに違いない。
 葵咲は何だかんだ言って、理人が真剣にそれを求めてきたら、拒み切れない自分がいることも知っている。

 電話口の理人の声が艶めいてきているのを感じるから、葵咲は一刻も早く彼を止めないと、って思った。

 このまま続けてしまうのは「何かが違う」と葵咲の心の中を違和感が支配していたから。
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