僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
(きっと……今日も帰ったらあの頃と同じようにされてしまうんだろうな)

 何となくモヤッとした葵咲(きさき)は、くるりと(きびす)を返すと薄暗い道を一人トボトボと歩き始めた。


***


「葵咲!」

 図書館へ背を向けて歩き始めたと同時。
 不意に大好きな低音イケボで呼び止められて、後ろからギュッと抱き締められた。

 図書館前は外灯がほとんどなくて、寄り添う二人は遠目に見るとシルエットしか見えないけれど、それにしても構内でこんなに急接近をするのは出来れば避けたいところだ。


「来てたんなら声掛けてくれれば良いのに」

 ぼそりと不満げに耳元で落とされた声に、葵咲は思わず「掛けられっこないじゃない!」と返していた。

「葵咲……?」

 言ってから『しまった』と思ったけれど後の祭り。

 理人にくるりと身体の向きを変えられて、真正面からじっと見詰められてしまう。

 思わずうつむいてその視線から逃れようとしたら、まるでそれを許さないみたいにあごに手を添えられて、上向かされて。

「何でそんな風に思ったの?」

 声音こそ至極落ち着いているけれど、どこか有無を言わせぬ響きを持った問いかけに、葵咲はしどろもどろ。

「こ、告白されてるのを見たからに決まってるじゃない……!」

 素直にそう言わずにはいられなかった。

「告白?」

 なのにキョトンとした様子で理人から返されて、葵咲は彼をキッと睨み上げる。


「さっき! 図書館のエントランスホールで女の子にチョコ、差し出されてたじゃない! 彼女、義理って言ってたけど……あれ、どう見ても本命だった!」

 吐き出したと同時、理人にギュウッと抱き締められて、耳のすぐそば。

「くそっ。ここが構内じゃなかったら、有無を言わさずキミにキスしてるのに……!」

 吐息交じりにそう落とされた。
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