名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

 それでも精一杯の笑顔を繕い、由佳さんと真由美が帰って行くのを玄関先で見送った。
 扉が閉まると朝倉先生と私と美優の3人になると妙に緊張する。

「夏希さん、姉が急に来て悪かった。驚いたよね」

 心配そうな朝倉先生が覗き込まれて、その視線から逃れるように抱いている美優に視線を落とし、大丈夫ですと首を横に振った。

 リビングへ足早に戻り、美優を寝かせ、渡しそびれていたスパーリングワインを取り出した。
「お土産に買って来たんですけど、お口に合えば良いのですが……」

朝倉先生が、「ありがとう」と受け取り袋から取り出すと、片手を招くように上げた可愛いラベルのワインが出てきて、フッと表情が緩ませ「冷やしておこう」と冷蔵庫に向う。

気まずい雰囲気から逃れられてホッと息をついた。

 本当は、朝倉先生に亡くなった奥様の事を聞きたかった。でも、その事を聞いたら真由美さんから教えてもらった事が分かってしまうから、どうしていいのかわからない。でも、気持ちが重たかった。

「今日、用意してくださったベビーベッドって、どなたかの御下おさがりなんですか?」
 思い切って聞いてみると、朝倉先生は優しい笑顔で返事をした。
「甥や姪が使ったものなんだ」
 その言葉にホッとする。けれど、これ以上突っ込んで聞く事も出来なくなってしまう。

「夏希さん、真由美から何か言われた?」

「えっ?」
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