名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
少し重い空気の中、お昼ご飯の支度をが終わった頃に将嗣がお父さんの部屋から戻ってきた。
入って来た時、将嗣の表情は憂鬱そうに見えたけど、私と視線が合うとパッと表情を明るくして言う。
「おっ! 母さんの漬物久しぶりだな」
とテーブルに並んだおかずを見渡した。
「他のもあるのに……」
お母さんは、不満を口にしながらも嬉しそうに台所とリビング行き来してご飯を並べた。
お母さんの手作りの郷土料理の汁物「こづゆ」には干し貝柱やこんにゃく、そして地野菜が入っていてお醤油味、仕上げに針生姜が一番上に飾られていた。他には、炊き込みご飯と煮物、そして、馬刺しが真ん中に置かれ、お昼ご飯にしてはかなり贅沢な感じになった。
みんなで席に付き「いただきます」と食べ始めた。
「夏希、お待ちかねの馬刺しだよ。いっぱい食べていいんだからな」
将嗣が、いたずらっ子のような瞳で私を揶揄う。
「福島に来たら食べさせてくれるって約束だったものね」
私は負けずに言い返すと将嗣は真剣な顔をして、ジッと私を見つめた。
「な、なに?」
焦って、言うと
「絶品手打ちそばの店が残っているな」
と一言。
「もう、人の事を揶揄って!」
私が将嗣に文句を言っていると紗月やお母さんがクスクス笑っていた。
「あ、食事中にうるさくして、すみません」
お母さんの前でバカなやり取りをしてしまい慌てて謝った。
「いえ、いいのよ。仲が良いのね」
ホホホッと、満足げに笑われると含みを感じて居心地が悪い。
「美優、おばあちゃんが炊いてくれたお野菜美味しいねー」
誤魔化し気味に美優に声を掛け、御出汁だけで煮た野菜をスプーンで潰しながら食べさせる。
嫁姑問題の話をよく聞くけれど、どんなに良い人でも結婚相手の御両親となれば気を使う。世の中のお嫁さんは、こんな感じなのかな? もっと凄かったりするのかな?
なかなか大変そうだと実感した。所詮、お嫁さんは、他所から来た人だから馴染むまでに時間が掛かるのだろう。私はお嫁さんではないけどね。