名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「えっ?」
「夏希さんが、大変な事故にあったのに私はそれを知らなかった。担当編集が、連絡をくれなかったらずっと知らないままだった。夏希さんの一番近くにいたはずなのに……急に遠い存在になってしまったように感じた」
ああ、そうだった。朝倉先生は、事故で奥様とお腹のお子さんを亡くされていた。なのに私は自分の事ばかりで、朝倉先生がこの知らせを聞いてどんな思いをしたかまで、考えが及んでいなかった。
事故の知らせを聞いて、慌てて駆けつけてくれた朝倉先生。
病室に着くまでどんなに不安だったのだろうか。
周りの事など気にせずに一番最初に朝倉先生へ電話をすれば良かった。
「翔也さん、連絡できずにいて、心配かけてごめんなさい」
「夏希さんを責めたり、困らせたいわけではなくて、夏希さんのために何も出来ない自分が歯痒かった」
少しこわばった手を重ねられたまま、真剣な瞳でそんなことを言われたら胸が、ギュッと掴まれたようになって視線を逸らせない。