名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「今だって、美優の子守を将嗣にさせて、他の男と会っていたのでしょう? 将嗣の何が不満なの? あなたに良くしてあげていたじゃない? そうやって色々な男の人にいい顔をして、自分の付加価値を上げようという作戦なのかしら?」
ひゅっと息を吸い込む。
朝倉先生とすれ違った事で逆鱗に触れてしまったのか……。
突然の攻撃に頭が真っ白になって、何も言い返せない。
自分の息子との間に子供まで作っていたのにプロポーズを断って、ほかの男と会っている女は、悪い女に見えるのだろう。
家に伺った時に他に『好きな人がいる』と言ったのはがいけなかったのか?
変な期待を持たないように、はっきり言った方が良いとあの時は思ったのだけれど、余計な事など言わずにやり過ごせば良かった。
一度口から出た言葉は、取り消しが効かない。正直に言った事が返ってマズい結果になってしまったようだ。
「あのね、子供をないがしろにして、自分の色恋にうつつを抜かしているようだから、親権について弁護士さんに相談させて頂く事にするわ」
「えっ? 美優の親権……」
心臓がバクバクと煩い程に鼓動を速めて、将嗣のお母さんの声が遠くに聞こえる。
「収入も家庭環境も将嗣の方があなたより条件が良いでしょう? 何せ、将嗣は歯科医師ですもの。きっと家裁に申し立てすれば、ウチが美優ちゃんの親権を取れる筈よ」
子供の親として自分の子供や孫が可愛いのは分かるけど、これはあんまりな申し出だ。怒りで手が震える。