すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
「あの、さ。……お前そのさんと付き合ってる時、あの人のことはちゃんと究さん(下の名)で呼べてたじゃん? ――なのに俺のことはずっと〝柳川(やながわ)〟のままなの?」

 聞かれて私は思わず息を呑んだ。

「呼んでも……いい、の?」

 前に柳川のことを下の名前で呼んだら、凄く辛い思いをさせてしまった。

 だから私。ううん、だからこそ私、花々里(かがり)さんとは違う呼び名で柳川のことを呼びたいって思ってて。

「あの……」

 恐る恐る柳川を見上げて、
「えっともう1人の幼馴染みちゃん……」
 しどろもどろになりながら一生懸命柳川のお母様の口から出た、あと1人の名前を思い出そうとしたら「小町(こまち)?」って聞かれて。

 私は小さくうなずきながら続けた。

「そう。その……小町さんは貴方のこと……何て呼んでる、の?」

 じっと柳川を見つめて問いかけたら、柳川は「何で急にそんな……」って言いながらも、「確かヒロ君、だったかな」って教えてくれた。

「じゃあ……私は柳川のこと、ヒロって呼ぶ」

 幼馴染みの2人とは同じじゃない、私だけの特別な呼び名が欲しい。

 そう思いながら柳川を見上げて、確認するみたいに「ヒロ?」って呼び掛けたら、柳川が真っ赤になって「バカ、お前っ、それ反則だろっ」ってつぶやくの。

 それから少し考え込むような仕草をした後、「コト」って静かな声音で私の耳に吹き込んできた。

言凛(ことり)、はそのさんに先越されたから……」

 小さく、拗ねたみたいに付け加えられた言葉に、私たちって似たもの同士だねって思って。

「ねぇ、ヒロ、もう1回呼んで?」
 そうお強請(ねだ)りしたら、彼が照れ臭そうに「コト」って呼んでくれて。

 私はそんな柳川――ヒロ――の声に、ニッコリ笑って「はい」って返事をした。
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