すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
***

 『菌次郎(きんじろう)』は大学近くの立地という好条件のためか、平日の夕刻だというのにそこそこの賑わいで。

「いらっしゃいませ〜。お好きなお席へどうぞー!」

 キノコ柄のターバンを三角巾みたいに頭に巻いた店主に元気よく声をかけられて、私はキョロキョロと店内を見回した。

 何だか顔を見ながらサシ飲みするのは恥ずかしく感じられて、数席続け様に空いていたカウンター席にさっさと腰を下ろすと、左横に柳川(やながわ)が腰掛けた。

 結局「本は借りるけどおごりはなしな?」って念押しされて、柳川は私の誘いに乗ってくれたの。


 最初は当たり障りのない会話から。
 って言っても私たちが話せる共通の話題なんてゼミ絡みのことが多いから、どうしても2人して大好きな変形菌の話題が多めになっちゃって。



 さすが菌を売りにしているだけのことはある。
 このお店、そこかしこに菌グッズが散りばめられていて。

 実は「菌」って付くから勘違いされがちだけど、本当は変形菌というのは菌と言うよりもアメーバーに近い存在だ。

 私たちのOBならそんなこと百も承知だろうに、キノコグッズやカビの胞子の写真などに負けないくらいの割合で、変形菌のアレコレも展示されていたりするから、粘菌好きには嬉しくて堪らない。

 現に――。
< 12 / 173 >

この作品をシェア

pagetop