冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 それからも、一矢さんはいろんな場所に私を連れ出してくれた。お弁当を持って動物園に行ったり、はやりのカフェがあると聞けば一緒に並んだりもした。

 阿久津さんが、『これ、もらったけど忙しくて』と遊園地のチケットを譲ってくれると、『この年にもなって……』と照れながらも連れていってくれた。

 その合間で、何度か母を交えて三人で食事もした。
『緒方さんなら、優をまかせられるわ』と安堵する母の表情に、やっと彼女も過去から解放させられたのだと、私の中の気がかりもなくなった。

 母はその後、祖父母の暮らす離島へと旅立っていった。見送りには一矢さんとふたりで行ったが、そこに予定を知っているはずの父が姿を現すことはなかった。


 懸念事項がなくなると、より一層日々の生活が穏やかなものになっていく。相変わらず私は、少し離れたスーパーへ買い物に行くし、ついでに図書館にも立ち寄る。
 天候が良くないと、最初に行った慣れない雰囲気のスーパーへも行く。一矢さんは近い方ばかりでいいと言ってくれるが、近所のお店では私が落ち着かないのだから仕方がない。

 せめて自転車を購入しようと、先日彼は嬉しそうにカタログを持ち帰ってきた。なぜか二台購入しようと目論んでいたけど。きっと春先にはふたりでサイクリングなんかも楽しめるだろう。






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