冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 三橋正信には、娘がひとりとその下に跡取り息子がいるだけだと聞いている。そしてその娘というのが、いつもブランド物で身を固め、バーで男漁りばかりする〝三橋の問題児〟としてかなり有名な女だと、良吾に聞かされていた。

 それから俺自身も別の数人の知人に確認したところ、全員が〝三橋の問題児〟の話を知っており、その通りだと頷いた。同年代の間ではかなり知られていたようだったが、あの店が肌に合わなかったうえに仕事も忙しく、すっかり足が遠のいていた自分の耳には入っていなかった。

 男をとっかえひっかえする。貢ぐこともあれば貢がせもする。そんな散々な話を聞いてしまえば、妻として素直に受け入れる気になるわけもなく、結果として優には嫁いできた初日にきつい言葉を浴びせた。

 薄々おかしいと感じていたとはいえ、それが人違いだなどと言われても、すぐに理解できずにいた。

「問題児と言われていたのは、三橋陽。優ちゃんの異母姉にあたるそうだ」

「異母姉?」

 三橋社長が再婚だとは聞いていなかった。優がその陽という女の異母妹にあたるのなら、彼女は後妻の娘なのか。

「ああ。しかも、三橋正信が愛人に生ませた子らしい」

「なんだって!?」

 思わぬ回答に、大きな声が出てしまう。良吾に諫められ、ウーロン茶を口にしてなんとか落ち着いた。

「つまり、三橋優は愛人の子だ。彼女は、件の問題児じゃない」

「そんな話は、親にも三橋側にも一度も聞いてないぞ」

「正確には、三橋側としては〝言えなかった〟だと思う」

 なにが起こっているのか、さっぱりわからない。父はこの話を、一体どこまで知っているのだろうか。

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