冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「ちなみに、三橋陽と優ちゃんとの年齢は、わずか半年ほどの差……」

 それだけでいろいろと察してしまう。
 つまり本妻が妊娠中かそれ以前から三橋には愛人がおり、その相手との間に優が生まれた。生まれたタイミングも、本妻にしてみればなんとも最悪だ。これが事実なら、本妻はさぞかし荒れただろうと想像に易い。

「知り合いに聞いて回ってわかったけど、数カ月ほど前に三橋陽は『本当に好きな人を見つけた』と周りに吹聴していたようだ。相手もバーに出入りしていたみたいだけど、どこの誰かまではわからなかった。その発言からしばらくすると三橋陽もその相手だと思われる男も、パタリと姿を見せなくなってしまったらしい」

 なんとなく、話の流れが読めてしまう。嫌な予感しかしない。

「三橋陽と表面上は親しくしていた女の子が教えてくれたんだけど、陽はどうやら『運命の相手についていく』と言いふらしていた。そいつに相当入れあげてたみたいだね。行き先こそ明かさなかったみたいだが、おそらくその通りに実行したんだじゃないかな」

「いなくなった陽の代わりが、優だったというのか……」

「断言はできないけど、その可能性は限りなく高いと思わざるを得ない。優ちゃんはずっと母親とふたりきりで暮らしてきた。三橋からは多少の援助はあったみたいだけど、贅沢とはかけ離れた生活だったようだ」

 そうだとしたら、優の着古した普段着も二足しか持ち込まれなかったスニーカーも、これまで抱いた違和感すべてに説明がついてしまう。

「優ちゃん、つい少し前までは坂崎と名乗っていたらしい。母親の姓だな」

「つまり、異母姉の陽がいなくなって困った三橋は、愛人に生ませた優を三橋姓に変えさせて、陽の代わりに俺に嫁がせたと」

「俺はそう捉えている」

 なんてことだ。そんな横暴で、愛情すらないような振舞をしてきた三橋に腹が立つ。
 そして、他人に確認しただけの話をうのみにして、優を軽んじてきた自分も同罪だ。

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