冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
 思い返してみれば、優はいつも俺に遠慮していた。それは初日から俺が牽制したせいだと思っていたが、やりたい放題してきた女性がそれに従うとは到底思えない。

 彼女はまるで、そうする以外の方法がなかったかのように俺の言葉に従った。口を開けば息をするように吐き出す謝罪が、すべてを物語っているようだ。

 優は俺に厭われているとわかっていても、いつも尽くしてくれた。自身は息を潜めるように過ごし、少しでも俺に不快感を与えないように気遣いながら。

 それなのに俺は、端から彼女を理解しようともせずに一方的に遠ざけた。それに彼女は、どれほど心を痛めただろうか。

「一矢、悪かった。こんな言葉だけで許されるものじゃないってわかっているけど、本当にすまなかった」

 真剣な表情で謝る良吾を、呆然と見つめた。
 悪いのは良吾じゃない。実際に顔を合わせて違和感を覚えたというのに、すぐに確かめようとしなかった俺だ。

「良吾が悪いわけじゃない」

「けど、俺が曖昧な情報を伝えてなかったら、もっと違っていたはずだ。優ちゃん、一矢の名前すら呼べずにきたんだよ。それは間違いなく、俺が余計な話をしたせいだ」

「それは違う。真実を自身で見極めようとしなかった俺が、全面的に悪い」

 すべて、自分の思い込みが招いた結果だ。

「一矢……」

 今すぐ優に会いたい。会ってただひたすら許しを請いたい。

 だが今の俺がそうしたところで、優にそれを心から受け入れてもらえるとは思えない。怯えすら見せるぐらいだ。逆らえずに謝罪を受け入れてしまうだろう。いや。そもそも逆らうという発想すらないのかもしれない。

< 77 / 150 >

この作品をシェア

pagetop