冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「一矢」

「なんだ?」

「三橋サイドには、どう対応するんだ?」

 そこも考えておかなければならない。父がどこまで把握しているか……。まあ、あの人のことだ。目先の利益に目がくらんで、気づいてもいない可能性が高い。

 この縁談で、うちが受け取る利益は小さくない。施設修繕費や設備投資を考えれば、手放したくなかったはずだ。
 父は医師としてはともかく、経営者としては向いていない。なんせ家庭内ですら多額をつぎ込んだ長男に逃げられたという事実がある。その程度の人間に、三橋のちらつかせたものの効果は大きかっただろう。

 今はなんとか赤字を出さずにいるが、これ以上あの人がトップに立っていればいずれ経営は傾いてしまう。退いて欲しいと思っているのは、俺だけではないと薄々感じている。

「蒸し返して、誰が得をする? 優はきっと、三橋に口を封じられているだろう。こちらがへたに言いがかりをつければ、三橋側もなにもしないわけにはいかなくなる。結果として陽を引きずり出してこられても、迷惑にしかならない」

「まあ、そうだね」

「とりあえず、対外的にはなにも知らないと貫き通すのがベストだろう。今は、優とのことだけに注力したい」

 冷静になってきたら、取るべき行動が見えてくる。

「優の母親に、会いに行きたいと思う」

 俺の発言を平然と受け止める辺り、良吾もそうするだろうと察していたのだろう。特に驚きは見せなかった。

「自分の目と耳で、真実を確認したい。そのうえで誠心誠意、優にも彼女の母親にも謝罪したい」

「そうだな」

「もし優が俺を許してくれるなら……そのうえで、この婚姻の継続を望んでくれるのなら、俺の一生をかけて、彼女を守っていきたい。幸せに、してやりたいんだ」

 俺の覚悟は良吾に伝わったようだ。
 まっすぐに見つめ返してくる良吾の存在が、いつだって俺を後押ししてくれるのだと、こいつは気づいているのだろうか。

「なんでも協力するから。いつでも頼ってくれ」

「ああ、そうさせもらう。ありがとうな、良吾」

 今夜はふたりとも酒を飲む気にはなれず、食事だけ済ませると、まだ二十二時前だというのにそのまま解散となった。

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