若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 彼に朝食の用意をさせるなんて、まるで自分の方が客ではないかと焦るマツリカだったが「俺が恋人のためにしたいからしているんだよ」と窘められ、しぶしぶソファに沈み込む。
 ふんわりと漂う懐かしい香りを前にマツリカの鼻がひくひくと動く。

「お味噌汁!」
「……そこ、驚くところ?」
「失礼しました。あの、コンシェルジュの朝食ってどうしてもふだんはパンとかサンドウィッチとかになってしまうんです。和食といえばせいぜいおにぎりくらいで……すぐに食べて勤務に入れますから。なので朝からお味噌汁が味わえるなんて嬉しくて」
「それならこれから毎朝和食膳の用意をさせるけど」
「……それは遠慮しておきます。飽きちゃいそう」

 赤味噌がつかわれた茄子と豆腐のお味噌汁をお椀にいれたものをカナトに手渡され、マツリカがうっとりした表情で口にする。

「いただきます」
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