若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「心配なら本人にきいてください。俺たちはカナトさまが横須賀汽船の令嬢と横浜のホテルでおはなししているのを遠目に見守っていただけですから」
「そう、よね……」

 いま、そのカナトは伊瀬とともにハゴロモ内にあるジムで汗を流しているところだ。ハワイを発ってから船のなかで過ごす日々がつづいていることもあり、身体がなまっているのだという。豪華客船内に配備されたスポーツジムは隔日で男性専用、女性専用とわかれており、今日は男性専用の日になっている。護衛ふたりと一緒にいるなら船内を散策していても構わないと言われたのでマツリカはコンシェルジュとしてではなく、豪華客船ハゴロモの乗客としてショッピングモールを見てまわっている。
 必要なものがあれば買ってもいいと言われたが、特に思い浮かばない。なんせ専属コンシェルジュにされた日の夜にドレスを三十着用意されてしまったのだ。マツリカがひとこと口にしただけでカナトは過剰な反応をするに違いない。

「カナトは、十五年前にあたしと逢っているんですって。あたしはそのときのこと、なにも覚えていないんだけど」
< 160 / 298 >

この作品をシェア

pagetop