若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 たしかにマツリカは死んだ父親のことを知りたくて鳥海海運の孫会社にあたるBPWに就職したが、若き海運王と呼ばれる彼とここまで近づくつもりはなかった。カナトの方が、マツリカを手放さないとぐいぐい迫ってくるのだ。クルーズが終わったらそれまでの恋人契約だと、ほんとうにわかっているのだろうか。
 不安そうな表情のマツリカを見て、カナトは淋しそうに口をひらく。

「この船はシンガポールには寄港しないけど、いつかふたりで行きたいな」
「カナト」
「俺とマツリカの、はじまりの場所へ」
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